最低賃金は時給で発表されるため、月給で働く正社員には関係が薄いと感じるかもしれません。しかし、正社員にも最低賃金は適用されます。月給を時間額に換算した金額が、新しい最低賃金を下回る場合は、引き上げへの対応が必要です。
中小企業を対象とした調査では、全回答企業の約14.6%が、最低賃金の引き上げに対応して正社員の賃金も引き上げたと計算できます。最低賃金のニュースを、自分の給与や応募先の月給に結び付けて見てみましょう。
正社員も、最低賃金が上がると給与が変わる?
最低賃金は、パート・アルバイトだけの基準ではありません。地域別最低賃金は、原則として雇用形態にかかわらず、その都道府県の事業場で働く労働者に適用されます。月給制でも、対象となる給与を時間額に換算して確認します。
これまで最低賃金を上回っていた給与でも、最低賃金の引き上げによって、新しい下限を下回ることがあります。その場合、会社には新しい最低賃金額以上を支払う義務があります。一方、すでに新しい下限を上回っている人まで、同じ額や率で自動的に昇給する制度ではありません。
自分の給与と比べるのは、全国平均ではなく、勤務先の事業場に適用される最低賃金です。改定額と開始日は都道府県によって異なります。2026年の金額と開始日は、最低賃金改定と求人・給与の確認ポイントで確認できます。製造業などで特定(産業別)最低賃金も適用される場合は、地域別と比べて高い方を使います。
中小企業の調査では、正社員の賃上げにも影響
日本商工会議所と東京商工会議所は、2025年度の最低賃金引き上げの影響について、全国の商工会議所会員企業を対象に調査しました。2026年2月2日〜27日に回答した中小企業3,780社のうち、45.1%が、新しい最低賃金を下回る従業員がいたため賃金を引き上げたと回答しています。
その賃上げをした企業1,705社に、対象となった従業員の雇用形態を尋ねると、32.4%が「正社員」を選びました。パートなども含めて複数回答できる設問です。
| 調査・計算の内容 | 割合 | 割合の分母 |
|---|---|---|
| 最低賃金を下回る従業員がいたため、賃金を引き上げた企業 | 45.1% | 回答企業3,780社 |
| 引き上げた従業員に正社員を含む企業 | 32.4% | 上記の賃上げをした1,705社 |
| 全回答企業のうち、正社員も引き上げた企業(当サイトの概算) | 約14.6% | 回答企業3,780社 |
出典:日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業における最低賃金の影響に関する調査」(2026年3月17日公表、4・7ページ)。約14.6%は、公表された45.1%と32.4%を掛け合わせた概算です。
回答企業のおよそ7社に1社で、最低賃金の引き上げが正社員の賃上げにも及んだ計算です。
最低賃金の引き上げへの対応は、中小企業だけの話ではありません。東京商工リサーチの2025年10月の調査では、大企業455社のうち25.9%が、改定後の最低賃金を下回る時給での雇用があり、給与を引き上げると回答しています。この調査の大企業は資本金1億円以上で、上場企業限定・正社員限定の数字ではありませんが、会社の規模だけで最低賃金の影響を判断できないことが分かります。
出典:東京商工リサーチ「最低賃金『25年度引き上げ』『1,500円以上』に関するアンケート調査」(2025年10月16日公表)。
前掲の約14.6%は、調査に回答した中小企業についての概算です。正社員の人数の割合や、最低賃金違反をしていた企業の割合を示すものではありません。
月給は、対象となる給与を時間額に直して比べる
確認する式は「最低賃金の対象となる月給 ÷ 1か月平均所定労働時間」です。手取り額や、残業代を含めた総支給額をそのまま割ると、比較する金額が変わってしまいます。
基本給と手当を分ける
対象になるのは、税金や社会保険料を差し引く前の基本給と、職務手当など対象となる手当です。通勤手当、家族手当、精皆勤手当は除きます。賞与や結婚手当などの臨時の賃金、時間外・休日労働の賃金、深夜の割増部分も対象に含めません。固定残業代も、時間外労働の対価として支給される分は除いて計算します。
手当は名前だけでなく、何に対して支払われるかも確認します。「毎月必ずもらう手当だから全部含める」とは判断せず、給与明細や賃金規程で内訳を確かめてください。
残業を除いた、契約上の勤務時間を使う
所定労働時間は、会社が定める通常の勤務時間で、休憩や残業は含みません。月ごとの勤務日数が異なる場合は、年間の所定労働時間を12で割って、1か月平均の時間を求めます。
例えば、1日の所定労働時間が8時間、年間の所定労働日数が252日なら、「8時間 × 252日 ÷ 12か月」で168時間です。その月に実際に働いた時間を、残業も含めて使う計算とは異なります。会社カレンダーや労働条件通知書で分からない場合は、給与担当者に1か月平均所定労働時間を聞いてください。
計算方法と給与の扱いは、厚生労働省の「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」でも確認できます。日給や歩合給を組み合わせた給与は、それぞれの賃金形態に応じた計算が必要です。
月給22万円でも、内訳によっては確認が必要
架空の例として、最低賃金が時給1,200円、1か月平均所定労働時間が168時間の職場を考えます。月給の内訳が次の場合、比較に使うのは22万円全体ではありません。
| 給与の内訳 | 月額 | 最低賃金との比較 |
|---|---|---|
| 基本給 | 190,000円 | 含める |
| 職務手当 | 10,000円 | 含める |
| 固定残業代(時間外労働の対価) | 15,000円 | 除く |
| 通勤手当 | 5,000円 | 除く |
| 総支給額 | 220,000円 | 比較に使う金額は200,000円 |
20万円 ÷ 168時間は約1,190.48円で、この例の最低賃金1,200円を下回ります。1,200円 × 168時間は20万1,600円なので、同じ所定労働時間なら、対象となる月給を少なくとも1,600円引き上げる必要があります。
一方、対象となる月給が同じ20万円でも、1か月平均所定労働時間が160時間なら、換算額は1,250円です。月給の金額だけでなく、給与の内訳と所定労働時間を一緒に見ることが、判断の分かれ目になります。
応募先の給与が分かりにくい場合は、ハローワークの求人票の見方で、基本給・定額的な手当・固定残業代の欄を読み分けてみてください。
気になるときは、勤務先・応募先に何を聞けばよい?
勤務先には、給与の内訳と計算に使う時間を確認します。応募先には、自分に提示される採用時の給与を聞いてください。求人の上限額ではなく、自分の条件で受け取る金額を使って比べます。
| 確かめたいこと | 質問の例 |
|---|---|
| 最低賃金の対象となる給与 | 「基本給と手当のうち、最低賃金との比較に使う月額はいくらですか」 |
| 計算に使う勤務時間 | 「1か月平均所定労働時間と、その計算方法を教えてください」 |
| 改定後の給与 | 「新しい最低賃金の開始日以降、給与はどのように変わりますか」 |
| 採用時の条件 | 「私の場合、基本給・手当・固定残業代はそれぞれいくらになりますか」 |
最低賃金を下回る疑いがある場合や、勤務先への確認で解決しない場合は、労働基準監督署に相談できます。会社に聞きにくい場合も、先に相談して構いません。給与明細や労働条件通知書、会社カレンダーが手元にあれば、計算の前提を伝えやすくなります。
相談先は、厚生労働省の「全国労働基準監督署の所在案内」で確認できます。最低賃金を下回る賃金の契約部分は無効となり、最低賃金額と同じ定めをしたものと扱われるため、不足分の支払いを求めることができます。
応募先を比較する場合は、同じ地域・職種の求人で、基本給、手当、所定労働時間を並べてみましょう。最低賃金を満たしているかに加えて、希望する働き方で生活に必要な収入を得られるかも判断材料になります。


